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●私の考える整形外科医療とは


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介護予防という発想

この度介護保険が始まって主治医意見書を書く機会が増えました。実際診察してみると動けないため介護が必要というより動かないため体力が弱っていたり痛みのコントロールができずに日常生活動作が不自由になったりしているケースがほとんどでした。介護だけでは、よくて現状維持ですがリハビリテーションを追加すれば回復する可能性もあるのです。
  以前テレビのドキュメンタリー番組で欧米の施設では“寝たきり老人”という言葉もなく日本の現状を話しても理解してもらえなかったと説明していました。そのテレビで観た車イスに乗った老人たちはパジャマなど着ることもなく女性はお化粧もしているようでした。洋服を着たりお化粧をしたりすることがボケ予防に役立っているのは明らかです。ただ“食事と排泄の世話”いうのでは動物を飼っているのと変わりありません。どんな状況でも人間の尊厳を失わずに治療しなくてはいけません。
  日本では特に安静が必要でもない患者にも入院中はパジャマを着せてできるだけベッドにいるように指導していますがこれでさらに長期入院や社会的入院(家族の都合で退院可能なのに入院させられている)が一般的に行われている日本では“寝たきり老人”は作られたものでありその発生は必然的とも思えます。入院中の体力低下を予防しようと思っても現在の保険医療制度では認められず、どこの病院でも採算が合わない広いリハビリテーションルームなど作れないのです。特に人件費も土地の値段も高い東京で理想の医療をやろうと思えばは全国一律の医療費という足かせがあるため赤字は必至です。
  寝たきり老人は「寝かせきり放置」の貧しい日本の老人医療、予防医療としてのリハビリテーションに対する医療行政の無理解によって作られたものです。
  最近の新聞などで見るかぎり厚生省は介護が必要になった人に対してどうしようかということばかり問題にしているようですが現在病院に通院されているかたがたにとって必要なのは今後介護を受けないで人生を全うするにはどうしたらよいかということです。
 
三時間待って三分診療

  私は医者になってから14年間を主に大学病院と呼ばれる『三時間待って三分診療』の典型のような病院で過ごしてきました。外来を担当するのは週に3回程度でしたがいつも午後2時ぐらいまで診察が終わらず昼食を食べそこねたりカップラーメンで済ませたりという生活でした。お昼近くになると待ちくたびれて疲れ切った患者さんやイライラして今にも爆発しそうな患者さんから「なぜこんなに待たせるのか?」と質問されました。
  朝9時に診察を受けている人は、ほとんどが5時ごろから順番をとっている人たちなので外来開始の時点ですでに4時間待ちの状態です。何かが間違っているのですがいまだに改善されません。研修医のころ一度だけ12時すぎに外来が終わる病院で外来をしましたがそこは県立病院で(労働組合がうるさいため)お昼になると外来の看護婦さんがどんどん交代で休憩に入ってしまうという理由で1日の新患の数を30人で切ってしまい、その後に来た人は受付をしてもらえないシステムでした。
  大学病院というのは診療のほかに教育と研究、さらに若い医師の研修を行っているところなので必ずしも経験豊かな医者ばかりではないのですが大病院集中傾向はますます顕著になってきています。経験が少なくても最先端の医学を学んでいるのですからもちろんそれなりのメリットがあるのですが『十分な設備が整っている』という安心感が患者さんの方にもあるようです。
  当院も個人のクリニックとしては待ち時間が長く皆さまにご迷惑をおかけしていますが医師一人で完全に対処するのは困難です。看護婦を含めたチームで病状の説明や生活指導などを充実させたいと思います。

忙しい医者の生活

  私の今までの経験では『医者に一番必要なのは体力?』といいたくなるぐらいに医者は忙しい。若い研修医を指導していると『思いやりの心、向上心、謙虚さ、そして一般社会常識』など生身の人間を相手にしている以上絶対欠けてはならないものが一つ二つ欠けているように感じることも時々経験しますが、夜中に救急患者で起こされたり重症の受け持ち患者がいたりしてほとんど眠れない一夜を過ごしても翌日は平常勤務に入るにですから常に患者さんに誠意をもって接するためには体力がなくてはやっていけません。タイムカードもなければ時間外手当もない労働基準法など関係ない生活です。以前聞いた「飛行機の機長は1ヶ月のフライト時間が乗客の安全のために法律で決められて」いて長時間の勤務の後は必ず休息日がある生活がうらやましく思えました。
  早朝からのカンファレンスや学会報告の準備、最新の医学知識を得るための専門誌の購読など医師として当然のことですが ある程度余裕がないと人間的にもかたわになってしまうし世間の常識から外れた他人の心の痛みがわからない専門バカを作ってしまいます。 順天堂浦安病院に勤務していたころの生活を思い返しても外来の無い午前はほとんど手術室でその他週に1回病棟回診があり、午後も検査や手術、予約制の専門外来などでなかなか時間がとれず、手術前後の自分の受け持ち患者の診察や家族の方への説明などは夕方遅くになっていました。最近しばしば新聞に医療ミスの記事が掲載されていますが医療費抑制政策の中で 看護婦さんを含めた医療従事者の人手不足が問題点の一つとしてあげられています。

“《忙》という字は《心》を《亡くす》と書く”これは医療ジャーナリストの山内喜美子さんのエッセイ『患者の言い分』-時事通信社発行-の中にあった言葉ですが私も含めて当院の職員一同、心無い一言で患者さんを傷つけたり不快にさせたりしないように気をつけたいと思います。



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